宇都宮美術館は1997年にオープンしました。私の家族が宇都宮に移り住んで間もない頃です。市の中心部から北に5キロほど離れた丘陵地の森に、緑豊かな自然環境を活かしてつくられ、アートの拠点としてばかりでなく、散策などの市民の憩いの場にもなっている。収蔵作品はカンディンスキー、パウル・クレー、マルク・シャガールなど20世紀以降の巨匠の収蔵にも力を入れている。その中には私どもがバブル時代に販売を手掛けたマルク・シャガールの初期の作品も含まれている。ロシア時代に描き始めパリで仕上げたといわれる貴重な作品である。関西の美術館に当時収めた作品が、周り巡って宇都宮美術館のコレクションになったというわけで驚いた。おしゃれなレストランやアートショップもある森の中の美術館である。
2001年の秋頃に、宇都宮美術館が主催して「森の中で家をつくる」というテーマのワークショップ企画があり、妻が「息子と一緒にやってらっしゃい」と応募してくれた。美術館の森にある竹や間伐材などを使って自由に家を作りましょう、という趣旨だ。ノコギリと鉈(なた)、シュロ縄と藁(わら)は美術館側が提供してくれた。毎週日曜日に開催され、一ヶ月位で仕上げるという企画だったように記憶している。息子が小学4年生頃のことで、毎週日曜日に一緒にでかけていった。
本来は子供が主体のイベント企画であったが、やっているうちにだんだん親のほうが一生懸命になってしまった。締め切りまで時間が足りないと思い、土曜日などにもこっそり行って制作に励んだ。手頃なクヌギの木を四隅の柱に見立て、孟宗竹で土台を組んでいく。周りの壁は竹を八等分位に割って交互に編んで壁を作り、シュロ縄でしばり、刻んだ藁をまぜて足で練りこんだ壁土を塗り込んでいく。屋根は太めの孟宗竹を二つに割り、上下交互に重ねて雨が中に流れてこない様に工夫した。結局時間も足りず、ご覧のような未完成の状態で時間終了となった。(下中央の写真)
子供の頃、故郷の裏山で隠れ家をつくったり、流木の丸太を集めて筏(いかだ)を作って遊んだと最初のページで書いたが、いい大人になってもこんなことが楽しい。都会暮しになれてしまったが、いまでも故郷に帰って自然のなかで丸太小屋でも作って暮らしたいと思うことがある。
美術品販売やデザインの仕事についてきたが、終生関心があったのは木造家屋や自然素材であり、立体的なものや空間的なものであった。高校時代も目指していたのは建築家であったが、当時の建築のトレンドに関心が減少したこともあり、違う方面に進んでしまった。当時主流の鉄骨やコンクリート材が中心の建築は、無機質で自然の温もりが感じられず興味がわかなかった。
たどってきた道に後悔はないが、好きなことは歳をとっても変わらないものだなと思う。2001年当時は美術品販売の仕事のみに没頭していた頃ですが、妻と子供のおかげでしばしの間、童心に返って楽しい時間を過ごせた。息子も今では、友達と一緒に南アルプスなど登山に出かけたり、ガーデニングを楽しむ自然好きな人間に育ってくれた。近年は親子で、奥日光や尾瀬でキャンプを張り登山を楽しんでいる。
本日は晴天なり。柿食えば鐘がなるなり法隆寺。