私の好きな画家の中に、ポール・セザンヌ、アンリ・マチス、ジョルジュ・ルオーがいる。皆フランスの画家であり、セザンヌは後期印象派、マチスはフォーヴィズムの画家とされている。ジョルジュ・ルオーもマチスと同時代に美術学校で学んでいるが、本人は画壇や流派とは一線を画し、ひたすら独自の芸術を追究した。テーマとしてはキリストの生涯を描いたものが有名だが、道化師や娼婦など社会の底辺に生きる人々を描いたものも多い。
今回書くのはフランスの巨匠達の事ではなく、私が画学生の頃に指導を受けた担当教授のことである。藤井令太郎、田中忠雄教授らがたまにきてデッサンと油彩を見てくれた。田中忠雄教授は下の画像にあるようなキリストの生涯をテーマにした油彩画が代表作である。ルオーと同様にステンドグラスの制作にも熱心に取り組んでおられ、ルオーの画風を彷彿させる。
ジョルジュ・ルオー作 、アトリエでの田中忠雄教授 、田中忠雄作(ゴルゴダの丘)
ある日のデッサンの受業時のこと、田中教授は制作途中の私の裸婦の木炭デッサンを見て、ご自身で木炭を握ってグイと腰骨あたりに太い線を引いて言われた。「もっと自信をもって線を描きなさい」と。繊細な線ばかりで、インパクトの弱いデッサンに見えたのだろう。
デッサンの描き方にも様々あるので、どれが正解というものはない。対象物を二次元的に正確に表現する訓練をするのであるが、対象物への洞察や情感、その肉薄した思いをいかに筆(木炭・鉛筆)に託して表現するか。その違いによって存在感や生命感の違いが出てしまうように思うのである。その時声をかけられた田中教授の言葉の印象が強く、“自信をもって線を描く”という大切なことを学んだ。
後年、私が絵画販売の仕事をするようになってから、アトリエのある田中忠雄画伯のご自宅に伺い再会したが「僕のような絵は、売るのは簡単じゃないよ」と、いつも謙虚であり温厚な田中教授でありました。
さて、私が惹かれる先程のフランスの巨匠達に共通して思うのは、黒(ブラック)を効果的に使い、その使い方が絶妙だと感心することである。
その芸術家に惹かれる要素としては、生き様や人生観であったり、様々な要素がミックスされるが、視覚的に共感する要素としては構図やフォルム、色彩やマチエール(絵肌の調子)からくる感動が大きい。とりわけ色彩の織りなすハーモニーは最重要である。ブラックには異なる多様な色彩を調和させ、引き立たせる魅力的なパワーがある。ブラックが効果的に使われるからこそ、全ての色彩が活かされ全体が深みを増してくると思うのです。
東洋の絵画は水墨画から発展してきた歴史でもあり、子供の頃から身近なところに水墨画などが多かった私は、黒(ブラック)に対する親しみや信頼が強いのかもしれない。
上記絵画(左からポール・セザンヌ作、アンリ・マチス作、ジョルジュ・ルオー作)
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